十角館の殺人「四日目・本土」の考察
※綾辻行人の館シリーズ「暗黒館の殺人」まで既読でない方、以下の文は読まないでください。根幹に関わるネタバレがあります。
17年間熟成された中村青司の秘密
四日目・本土にて、島田と江南くんが中村青司の弟である紅次郎を訪ねたシーンです。
紅次郎が中村青司との最後の会話について話しています。(手元の新装改訂版だとp297)
「…完全に狂っている、としか思えなかった。私が何を云っても耳を貸さず、自分たちはいよいよ新たな段階をめざすだの、大いなる闇の祝福がどうだのこうだの、送ったプレゼントは大切に扱えだの、わけの分からないことをひとしきりまくしたててね、…」
初読のときは狂人の妄言だと流し読みしてしまいました。
しかし「暗黒館の殺人」を読んだあとだと
大いなる闇の祝福=ダリアの祝福
だと理解が出来ます。
「十角館の殺人」初刊、1987年
「暗黒館の殺人」初刊、2004年です。
中村青司はダリアの祝福を受けた者という設定を17年もの歳月あたためていたことになります。
思わず感動ため息をついてしまいました。
凄いぞ、綾辻行人。
暗黒館の事件後も浦登家と繋がっていた可能性
私は「暗黒館の殺人」における一連の事件後も中村青司と浦登家には交流が会ったのではないかと考えています。
玄児さんと中也くんのブロマンスに狂った人間の戯言と思うかも知れませんが、そう思う理由は引用した箇所に基づくものです。
中村青司は「自分たちはいよいよ新たな段階を目指す。」と言っています。
自分たち=中村青司と妻の和枝
との解釈で間違いないでしょう。
当然のことながら「新たな段階へ進む」にはその前にダリアの祝福を受けてなければなりません。
(新たな段階がどういう状態のことを指すのかまだ考察不足です。おそらく惑い状態かと思いますが、それだと青司に殺された和枝はどうなるんだ?と疑問が解消していません。)
つまり中村青司は無理心中を起こす前に和枝にダリアの祝福を受けさせなければならないのです。
妻を連れて暗黒館を訪ねた可能性もあるでしょうし、中村青司と浦登家はあのあとも家族に近しい関係を続けていたのではないかと以上の考察から結論づけた次第です。
紅次郎の語りの一部からここまで考えるのは我ながら気持ち悪いですが、つまりはそうしたくなるほど魅力ある作品だということです。
細部まで味わい深い、素晴らしいシリーズ作品を読めたことに対しては感謝しきれませんね。
いち