読書で世界一周:アメリカ編〜河出文庫「世界怪談集」〜
1990年頃に刊行されたシリーズが2019年から新装のうえ復刊された河出文庫「世界怪談集」。魅力的な装画に惹かれて購入しました。(要するにジャケ買い)
ステイホームでなかなか外出できない年末年始。ふとした思いつきではじめた世界一周旅行がとても楽しかったので(1/3現在道半ば)記録に残しておこうと思います。
一冊目はアメリカ。
- 牧師の黒いヴェール/N・ホーソーン
- 古衣裳のロマンス/H・ジェームズ
- 忌まれた家/H・P・ラヴクラフト
- 大鴉の死んだ話/A・H・ルイス
- 木の妻/M・E・カウンセルマン
- 黒い恐怖/H・S・ホワイトヘッド
- 寝室の怪/M・W・フリーマン
- 邪眼/E・ウォートン
- ハルピン・フレーザーの死/A・ビアス
- 悪魔に首を賭けるな 教訓のある話/E・A・ポオ
- 死の半途に/B・ヘクト(注:猫が死にます)
- ほほえむ人びと/R・ブラッドベリ
- 月を描く人/D・H・ケラー
牧師の黒いヴェール/N・ホーソーン
この短編集はタイトルのあとに、作者の簡単な紹介があります。
第一作品が「マサチューセッツ州セーラム生まれの小説家。...」からはじまることに編者の意図が感じられてぐっと惹き込まれました。
「緋文字」で有名なホーソーン。寓意じみた怪異談、宗教説話のような幻想物語が多数あるらしく、本作もその一つ。
皆に愛されている牧師の顔がある日突然ヴェールで覆われる。たったそれだけで信頼関係の崩壊が始まり...。
牧師様がいい人なだけに、人々の疑心暗鬼が生み出す闇が本当に悲しい。
古衣裳のロマンス/H・ジェームズ
兄は哲学者兼心理学者のウィリアム・ジェームズ。意識の流れ理論を提唱した心理学の父と呼ばれる人らしい。
弟である著者の作品も人間の意識・無意識の変容をみる立場から描いた幽霊物語。
魔性の女である姉が自身の亡き後家庭に必ず入ってくるだろうと確信した妹は、夫にある約束をさせる。
一人の紳士を奪い合うことから始まった姉妹の心情描写が丁寧。だからこそ恐ろしい。
忌まれた家/H・P・ラヴクラフト
我らがラヴクラフト!!!なので紹介は省略。
驚くほど沢山の人間が死んでいったという「その家」。
長年その家にまつわる資料を収集していた叔父とともに闇の核である地下室探索に挑む。
主人公の用意した武器にちょっと笑ってしまったが、ラヴクラフト的恐怖と主人公の犯してしまったことへの恐怖の二段構え。叔父さんが可哀想。
大鴉の死んだ話/A・H・ルイス
元カウボーイのジャーナリストだそう。開拓期のアメリカの物語を多く残した人らしい。
インディアンが古くから信じる「風に乗る妖怪」ウエンデゴー。
牛飼いの老人が語る古き良きアメリカの法螺話。
木の妻/M・E・カウンセルマン
静かな日常を過ごす典型的なアメリカ地方出身作家とのこと。生活にふと忍び込んだ怪奇を描く。
許されぬ恋の末殺された男が乗り移ったと噂される木と、その妻に会いに行く主人公たち。
第三者が介入しなければ「いい話」で終わりそうだが...
黒い恐怖/H・S・ホワイトヘッド
20世紀初頭の代表的怪奇小説作家。聖職者として訪れたヴードゥー教の迷信がはびこるインドでの体験が色濃く反映されている。
呪いをかけられた青年を救うには「彼の代わりに埋葬された」呪物を掘り起こし燃やしてしまわねばならないのだが...「結婚に反対しているのに頑固に食い下がるから」程度の理由でこんなことになってしまうとは笑
伝統的で不合理な恐怖と日夜戦うリチャードスン神父!強い!!
寝室の怪/M・W・フリーマン
恐怖に対する嗜好はポオ、ラヴクラフトのそれに通ずる。
行方不明になった男の日記を読んでいくとそこには彼が失踪するまでに体験した奇妙な現象が記録されていた。
異界が近づくにつれ、不思議と暖かさや爽やかさの描写が目立つようになる。自ら「なにか」に身を委ねようとするような、獲物としての人間が描かれているのかもしれない。
邪眼/E・ウォートン
「古衣裳のロマンス」の作者、ヘンリー・ジェームズの影響のもと近代人の精神的葛藤を描く。
短編集「人間と幽霊の物語」に収録されている「あとになって」が最高傑作らしいが、これは多くのアンソロジーに採録されているため本書には「邪眼」が選ばれた。
本作も、脅迫観念から精神狂乱に展開していく怪異談。
ひたすら「眼」におわれる物語なのだが、「眼」が現れない時期の話のほうがむしろ苦しい。(それから開放されたから眼が現れたのかしら?)
好青年だけれども全く才能がない友との生活。
失望したのは彼が文学について語り始めたときだ。私はこの手のタイプをよく知っていた。自分には才能があるのに、周りは認めようとしない、と思い込んでいるのだ。...彼は常に間違ったものに感動していた。...最悪なのはその愚鈍さがすぐに悟られるものではなかった点だ。
(「邪眼/E・ウォートン」)
ここだけで致死量。
「君の天職はヒモ(意訳)」は面白すぎる。
ハルピン・フレーザーの死/A・ビアス
ジャーナリスト。メキシコ動乱に身を投じて行方不明となる。
極貧農家の出自からか、家庭・両親嫌悪、社会や農村への嫌悪があらわれる。
異常事態における恐怖を描いた作品が多数。芥川龍之介にも影響を与えたらしい。
罪を犯した意識はあっても一体何をしたのかわからないまま血だらけの森を歩き続けるハルピン・フレーザー。
母との異常な関係性がもたらした結果は何だったのか。
悪魔に首を賭けるな 教訓のある話/E・A・ポオ
この方もおなじみなので割愛。
余談ですが、私が初めてポオ作品に触れたのも怪談集でした(小学生向けの「世界の怖い話」的なやつ)。「黒猫」なのですが、最後のあの場面の挿絵があまりにも美しくて今でも思い出せます。いかんせん何の本で読んだか正確に思い出せないので心当たりのある方は教えてくださると幸いです。
著名な作家なので、人口に膾炙していないもの、かつ「なぜ妖精伝承はアメリカに伝承しなっかたのに悪魔は伝承したのか」を探るために本書に採録されたそうです。(読んだ結果さっぱりわかりません。頭のいい人、解説してください。)
「悪魔にこの首を賭けてもいいが」が口癖の男の最後はいかに。
ポオ作品に出てくるいっちゃってる人はどこか憎めないんだよなぁ。
ラスト4行は絶対笑わせにきてる。
死の半途に/B・ヘクト(注:猫が死にます)
「シカゴ・リテラリー・タイムズ」の設立者。
都市的サイケデリック小説「悪魔の殿堂」が有名らしいので読んでみたい。
本作はtheアメリカの怪談。編者荒俣宏の最愛の一作とのこと。
主人公が借りた一軒家が抱えている陰惨な過去。正気が徐々に侵食される。
猫の死が描写されるので再読がしんどい。映画だけど「ジェーン・ドウの解剖」を思い出す。あれも猫が死ぬからだめ。
ほほえむ人びと/R・ブラッドベリ
ブラッドベリは「火星年代記」と「華氏451度」しか読んだことないので怪談の印象がまったくなかった。それもそのはず、怪談系の著作は作品集「十月はたそがれの国」に尽き、母体となった作品集「闇のカーニヴァル」は稀本扱いなのだとか。